9人が本棚に入れています
本棚に追加
暫く客間の入り口で何をするでも考えるでもなくボーッとしていたら、玄関の鍵が開く音がした。
ハッとして玄関に向かうと、保育園から帰宅してきた妹が入ってきた。
「おかあさんは?」
大きな目で私に問いかけてきて、小首を傾げながら聞いてきたその言葉に「お店の手伝いに行ったよ」と返すと、妹は短く「そっか」と返してきて台所に向かった。
冷蔵庫を開ける音が聞こえる。少しの間を置いて、閉める音がすると、ワタシも台所に移動した。
2才下のまだ小さい妹が、一生懸命食器棚に手を伸ばしている。
食器棚にすら明らかに届いていないのに、妹が背伸びを止める気配はない。
「ひろみちゃん、スプーン、とって。」
ワタシに気付いた妹が、泣きそうな怒った目でワタシを睨みながらそう言った。
それにワタシは、台所の隅にある少し重い椅子を食器棚の前に持ってきて、扉を開けた。
少し背伸びをして手を伸ばし、やっと届いたスプーンを取って渡すと、妹は「ありがとう」と笑ってくれた。
スプーンを持つもう片方の手にはプリンがある。
それをワタシが見ていると、妹はワタシの視線に気が付いたのか、口を開こうとした。
「ワタシは食べたから、いらないよ。なっちゃん。」
本当は食べてない。
昨晩はお父さんに怒られて、昼過ぎまで押し入れの中に閉じ込められていた。
そこからこっそり抜け出して、あまりの空腹に冷蔵庫を漁って、今まさに妹が食べようとしているプリンを見つけたところを、買い物から帰ってきた母親に見つかったのだ。
そして母親に客間まで耳を引っ張られて連れられ、正座させられ、蹴られた。
そこで冒頭に戻るのだ。
最初のコメントを投稿しよう!