イチ

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再びボーッとしていると、妹に呼ばれた。 泣きそうな声でワタシを呼んでいる。 声のする居間まで行く途中、廊下には妹が通っている保育園の割烹着とリュックが落ちていた。 赤いチューリップの名札にはお母さんの字で「なつみ」と書いてある。 それらを拾って階段を登り、子供部屋の小さな机に置いてから、再び居間に行ってみると、妹の手には空の容器。服にはプリンの甘くて黄色いカスタード。 そして彼女の足元の畳の上には落ちてグシャグシャになったプリンがあった。 右手のスプーンは少し汚れている。 どうやら待ちきれずに歩きながらアルミの蓋を開けて食べていて、こたつの上に置く前に落としたらしい。 「ひろみちゃん。なっちゃん、おとうさんにおこられる!」 泣きながら顔を真っ青にして言う妹に、ワタシは何も言わずに客間に向かった。 そこでボーッとしてる間に落としていた未だ濡れたままの雑巾を拾って居間に戻ると、妹はしゃがみこんで大泣きしていた。 「大丈夫だから。」と言い聞かせて泣き止ませ、服を脱がす。下着まで全部脱がせると、ワタシは妹の手を引いて浴室に向かった。 「上、片付けてくるから、大人しく湯船に浸かってて。」 身体を洗ってやって湯船に浸からせるとそう言って、ワタシは浴室から出て手で服を洗った。 運が良いことに妹が着ていたのは黄色いTシャツだった。カラメルは付いていなかったから、水でプリンを流して洗濯機に入れてしまえば問題ない。 台所の流しに、先程食器棚を開けるのに使った椅子を持ってきて、妹の服を洗う。洗濯機に入れてから、居間に戻ってティッシュでプリンを掬い、そのままティッシュにくるんだ。そこで、客間に再び戻った。ワタシの血が付いた服を入れた袋を探すために。
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