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名前を呼ばれた気がして目が覚めた。
壁に預けた体と頭。
下を向いたまま目を開ければ、視界の隅には小さな足。
その足を辿って彼女を見れば、妹は小首を傾げてワタシを見ていた。
(見るな。)
そう思っても口には出さず、立ち上がって妹の手を取り、居間へと歩き出した。
居間に入ると焼き魚の良い匂いがした。こたつの上を見てみると、そこにはご飯と味噌汁、なんの魚かはわからないが焼いた白身魚と、肉じゃががあった。
割烹着姿の父さんもいる。店が始まる少し前、18時にうちの夕御飯は始まる。
昨晩叱られ、押し入れに閉じ込められた経験から、俯き加減に自分の所定の位置に座った。
途端に父親がワタシに気付いて舌打ちをする。
それに大袈裟に反応する自分の肩に叱咤して、ただコタツの布団を握りしめた。
少ししてお母さんが台所から居間にやってきて座ると、お父さんが「いただきます」と口を開いた。
それに続いてワタシと妹も同じ台詞を口にする。
妹はスプーンを使ってお母さんにほぐしてもらった焼き魚の身を食べながら、お父さんと会話している。
保育園であったことを楽しげに。
一方、ワタシの方は昨晩父親に叱られた箸の持ち方に四苦八苦していた。上手く掴めず、それどころか箸を落としてしまった。
カチャンと音を立てて落ちた箸を睨んでいると、上からお父さんの怒りを含んだ声がした。
「なにしてんだ。」
「…おはしが…うまく持てなくて…っ――。」
危険を感じてどもりながらも答えるも、お父さんはその返答が気に入らなかったらしく、ワタシの目の前に星が散った。
お父さんから拳骨をもらったらしい。
いつもなら泣いて謝るが、今夜はそうならなかった。それどころじゃなかった。
目の前に星が散った直後、視界が真っ赤に染まったのだ。
瞬間、頭が重くなって、目の前が真っ暗になって目を閉じた。
ワタシはまた意識を手放し、目が覚めたときには箸を上手く持てなかった自分を呪った。
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