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あれ、と思った。これ、こっちのペースじゃね? てか、もともと俺っち、何でもしますって言ってたし。新たな弱み握る必要なくね? と。
「ほんとだよ。私、裕紀くんのためなら、なんでもできるよ?」
僕はやはり、彼女のことをよく知らないのだと知った。二週間足らずで知った気になるなんて傲慢にもほどがあると反省もした。
「ほんとだよ!」
そう言った彼女はほとんど泣いていた。その顔を見たら、僕は心の奥でむずむずとしたなにが生まれるのを感じた。
心臓が高鳴った。彼女の告白を受けた二週間前よりも、いやそんなのとは比べものにならならないほどに、黒くてどろどろとした欲望を感じた。
自分が自分じゃなくなる感覚。自分とは別のなにかが体を支配している感覚。うまく説明できないけれど、今なら、君は二重人格なんだよ、と言われてもすんなり信じるだろう。
「なんでもって、なんでも?」
正座のまま、僕は訊ねる。ももの上においた握りこぶしにぎゅっと、力が入る。
「なんでも」
瞬間、心臓の高まりがおさまって、目の前にいるはずの彼女がとても遠くにいるように感じられた。
「そうか」
これは、『もう一人の僕』が口にした言葉。突如として僕を支配した『彼』はいたって冷静で、無表情のまま、足の痺れなんか感じる様子もなくすっと立ち上がり、ベッドにおもむくと枕の側をまさぐりはじめた。
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