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その日の夜のことだ。自宅前の公園に僕はいた。ペンキの剥げたボロいベンチに浅く腰掛けて、長い間、こうして月を見上げている。今夜は満月だった。
「おい」と、突然、胸に誰かの声がぶつかった。
あごを引いて正面を向くと、親友がいた。
「夜に一人で出歩くのはよくないよ」と僕は言った。
親友はふっと笑って、「お前がいる。だから一人じゃない」と言った。
親友のこの言葉が、僕が言ったことへの返答なのか、それとももっと広い意味なのか、僕には判断がつかなかった。ただの返答にしては重みがありすぎた。まるで、人生を悟った人の最期の言葉のようだった。
そうやって返答に困った僕を、沈黙のプレッシャーが襲った。
普段から沈黙を嫌う性格をしているならば、こういったときの場の繕い方というものを知っているだろう。けど、普段の僕は沈黙のプレッシャーを感じるタイプではないので、異常事態の今、僕には笑ってやることが精一杯だった。
すると、不気味な笑顔が作れた。
それを見て親友は、「そうやって、栗林の前でも笑うのか?」と笑った。僕の笑顔はより不気味になった。
「たぶん、もっとうまく笑ってるよ。今のお前みたいに」
「そうだね。最近、お前は栗林と仲がいいからね」
「本意じゃない」
「だとしても」
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