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再び返す言葉が見つからなかった僕は、逃げるようにして親友から視線を外し、月を見上げた。
彼は相変わらず、真ん丸で、わずかに赤みを帯びて輝いていた。
こんなきれいな月は滅多に見られるものじゃない。さすが僕だ、運がいい――とは思わない。だって、僕は彼が嫌いだから。
そういえば、親友は、かぐや姫がうらやましいと言っていたことがあった。僕がどういうことか訊ねると、「僕も、月とまではいかないけど、そういう、世間から掛け離れたところへ行きたいんだよ」と答えていたっけ。
そのときはうまく理解できなかったけど、今なら、うん、少しだけだけど、わかる気がする。
「なあ、まだ、月に行きたいと思っているのか?」と僕は思い出したように言った。
「……ああ。もちろん」
「そのときは、僕も一緒に連れていってくれ」
「当然だ。僕からもお願いしたい」
遠くから見ると美しい月は、しかし、近くから見るとクレーターだらけでひずんでいて、お世辞にも美しいとはいえない。
だから嫌いだ。というほど、僕は単純じゃない。その理論だと、たとえば富士山なんかも嫌いということになってしまう。
「実は、僕、月が嫌いなんだ」
言って、視線を親友に戻す。親友は空を見上げていた。
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