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「お前は富士山にも同じようなことを言っていたな」
「そうだったっけ」
「そう。なのに、富士山に登ったあとには意見を変えていた」
「……へぇ」
「だから、お前は月に行ったら、たぶん、月のことを好きになっちゃうよ」
僕は妙に納得した。
たしかに、僕は富士山が嫌いだった。でも、中学二年生のとき、学校の企画で富士山に登ったあとには、嫌いではなくなっていた。
「お前は単純だからな。日本一って響きに嫉妬でもしてたんだろうね」
また、納得。僕は単純だ。
「頂上に達して、日本一高い山よりも高いところからの景色を見て、お前は満足したに違いない」
「……かも」
「お前は知らないものをとりあえず嫌う。富士山や月だけじゃない、人だってそうだ。……そして、知れば嫌いではなくなる」
親友がこちらを向いた。吸い込まれるように目があった。あまりにもタイミングが良すぎて、そらしそこねた。
親友の口がわずかに動いた。声は聞こえない。
それでも、知りすぎたら、だめなんだ。普通ならなんて言ってるかなんてわかるはずないけど、間違いない、たしかにそう言った。
僕もそう思う。言葉にする代わりに、僕は悲しくうなずいた。
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