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アスファルトに染み渡る大量の血を眺めながら、僕は考えた。
幽霊が存在していると思うかと訊かれたら、「いるんじゃないかな」と答える。幽霊は存在しているかと訊かれたら、「僕は見たことないよ」と答える。
三十年以内に地震が起こるよと言われたら、「そりゃあそうだ」と答えるし、明日にでも地震が起きるかもしれないと言われたら、「かもね」と頷く。
世の中にあるすべてを、「有り得ること」として、今の僕なら受け止めることができる。けれど、本当のところ、どうなんだろう。心の奥では、起こるはずないと甘えているものもあるんじゃないかな。
――人が死んだ。目の前で。
がんばりすぎると人目につく。しかし、がんばらなければ生きてはいけない。意志がなければ才能がないと罵られ、意地を通せば厄介者になる。正直に生きれば損をして、ずるがしこく生きれば心が持たない。
まったく、世の中は住みにくい。
逃げだせばいくらか住みやすくもなるけれど、すぐにまた住みにくくなるに決まっている。けど。一時しのぎにしかならないことはわかっていても、逃げだしたくなる気持ちは抑えられない。
だから……。
……そもそも、世の中を住みにくいと考えること自体が逃げであるから、この考え方を変えなければ解決策はない。それもわかっている。
でも、この考え方は僕の人生そのものだ。僕を形成する核で、これがなければ生きてはいけないはずだし、たとえ生きていけようと、それはもはや僕ではない。だから。
だから逃げだしてみた。
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