加速する世界と

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今の僕よりも、もっと幼い僕がした「逃げ」は、他者との関係を限界まで断ち切ることだった。 もちろん、そんなこと、できるわけがない。未成年で軟弱な僕が一人で生きていけるはずがない。両親は僕にほとんど関心がなかったから、僕が一人で暮らすことに反対こそはしなかったけれど、思慮ある大人して、生活に困ることのないお金を定期的に僕に寄越した。 家もくれた。一軒家。昔、僕たち家族が住んでいた家を。 十分すぎる援助を受けて、僕は一人(比喩的に)で生活した。一人で、といいながら例外もあった。家族、先生、友達、とは関係を切った(あくまでも比喩的に)けど、親友とは、親友のままでいたのだった。 寄って来るものを拒み、親友とだけといっしょにいる。そんな生活を、一年と少し、続けた。 できるわけがないことはできるわけがなかった。知っていて、一年と少し、意地でもって意志を貫いた。断ち切ったはずのつながりは、いつの間にか結び直されていて、また、新たなつながりも少なからずできていた。 中途半端はいけない。やるならばとことんやらなければ。と僕は学んだけれど、もう、どうでもよかった。逃げることが、すでに嫌だった。 僕は世の中を受け入れることにした。それが、あの満月の夜のことだった。 ――人が死んだ。目の前で。それもクラスメートが。いや、クラスメートだけど、それよりもよっぽど太いつながりだった人が。 そして、そんな太いつながりがいとも簡単に切れた。切れるはずがない、そう思っていたつながりが。 つい三週間ほど前に世の中を受け入れる決意をしたはずなのに、こればっかりは、受け入れるなんてできるはずがない。一年と少し続けた生活で見出だした結論が、あっさりくつがえったからじゃない。もっと根本的に。人として。  
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