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それは、間違いなく、日常だった。
自分はいつ死ぬかわからない、たとえば、後ろの席のやつが、隠し持っていたナイフで無防備な僕の背中を突き刺すかもしれない、みたいな考えでもって生きてるやつなんて、そこにはいなかった。
クラスメートがいつ死ぬかわからない、たとえば、隣の席のやつが急に意識を失ったとしたら、周りのやつにこんな指示をしたあとに、僕はそいつに人工呼吸や心臓マッサージをして……、みたいなことを考えて生きているやつも、いなかった。
みんな、日常が続くと思っていた。口では、だるいだとか、つまらないだとか、めんどくさいだとか言っていても、ほんとのところは現状に満足していたに違いなかった。
昼休みが終わっても、栗林は帰って来なかった。
午後一番の授業を担当する物理の秋山先生は、栗林の居場所を知っている人がだれもいないことを知って、困ったなあ、と眉を掻いたあと、保健委員の七崎を保健室に向かわせ、トイレを確認しに教室を出た。
去り際、先生は、静かにしていろよ、と忠告したけれど、すぐにクラスはざわつき始めた。
ふと、視線の片すみをなにかが走り抜けた。窓の向こう側だ。ときどき、ハトやカラスが窓のすぐそばを落ちるように飛ぶことがあるので、一瞬それかとも思ったけれど、それにしては影が大きすぎた。
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