縛る

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栗林が死んだ――と僕たちは決めつけはしなかった。 栗林は屋上から落ちた。死んだと決まったわけでもないけれど、もう、ほとんど決まりだろう、四階以上の高さから落ちて、助かるはずがない。と思ってはいても、だれも口にはしない。言った瞬間、それが現実になる気がするのだ。 遺書は見つからなかったらしい。どこから仕入れたのか、お調子者の山崎が言いふらしていた。真偽は知らない。けど、僕が見た限りでも、死ぬそぶりというか予兆というか、そういうのはなかった。 だれかに突き落とされたという可能性を考えて、僕は、そんなはずがないと鼻で笑った。そう、これだけはぜったいにゆずれない。そういう事件は、テレビの中だけの話なのだから。 みんな、そう考えて、事故なのかなと行き着くけれど、そんな理由で納得できる僕たちではない。じゃあ、そもそも、どうして栗林は立入禁止の屋上にいたのか、と思ってしまうのだ。 あいつのことだから、ただたそがれていただけかもしれない。とも僕は思う。それで、なにかの拍子でたまたま落っこちた。案外、それが一番近いのかもしれない。  
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