縛る

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物理の授業は自習になった。今は現代文の授業中。いつも、笑えない冗談ばかりで授業を脱線してばかりいる山井先生が、一度も僕たちを笑わそうとしていない。 視線を右に滑らすと、栗林の机が見える。いや、滑らさなくても、いつだって視界の端っこにある。ただ、そこに栗林はいない。いつも机に突っ伏して寝ているのに、今はいない。 体をのけ反って、ノビを一つ。そのあと、あごを引いて、栗林の椅子の背をぼんやりと見つめる。 机の中に、教科書が、まるで陳列でもしているかのように、きれいに収納されているのがわかった。あいつ、意外と几帳面なんだ。知らなかった。 授業は相変わらず淡々としている。しすぎてつまらない。こんなつまらない授業なら、いつもの冗談を聞いていたほうが百倍マシだ。 腕を枕に机に突っ伏して、目を閉じる。こうしたとき、栗林はいったいなにを考えていたんだろうか。 たぶん、なにも考えていなかったんだろう。……あいつのことだから。  
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