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急いで立ち上がり、
俺は彼女に挨拶を返した。
「来てくれてありがとう」
向かいの席をすすめると、カヨはまた困ったように微笑んだ。
そうか。
「あ…オープン席じゃ、寒いよね」
中に移ろうと提案すると、ようやく安心したように、カヨは右手を差し出した。
「よろしく、お願いします」
細くて、柔らかくて、すべすべとした手を軽く握り返して、
俺はカヨをレストランに案内した。
この瞬間にはもう、あの紹介所は悪くない。
そう思い始めていた。
予約の時間まで少しあったが、ウェイターは快く奥の個室に案内してくれた。
テーブルの間を歩いていくとき、
何人かの客たちの視線を感じた。
まずカヨに、それから俺に。
カヨは決して華のあるタイプじゃない。
目を引くような美女でもない。
けれど、仕事に疲れて外を歩いている時に
ふと目が止まって
思わずほっとした気分になる春の花や仔猫、
ほんの少し優しい気持ちを揺り起こしてくれる存在、
それに似たような雰囲気を、
彼女は持っていた。
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