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「胡桃ちゃん、お疲れ様」
「お疲れぃ」
「来週から制服を着るんだね」
「楽しみだね」
私は葉山胡桃。
高校時代からの夢を叶えるべく、CAの卵として訓練に明け暮れる毎日。
訓練生は学ぶことが多く、ぶっちゃけ学生の時よりも勉強していると思う。
大空に飛び立つ夢のためなら、どんな訓練もパスしてみせる。
その時はそう思っていたのにね…。
「胡桃ちゃん、明日はカズが駅に迎えに行くって」
「大丈夫。歩いて行くよ」
「胡桃ちゃんとお話ししたいんだって」
「私と?」
「お兄ちゃんの思い出でしょ。聞いてあげてよ」
「おーけー」
訓練が終わって駅へ向かう道。
いつも親友の桃香と一緒なんだ。
彼女とは10年以上の腐れ縁。
小学生の頃の私は宝塚を目指していた。
バレエ教室で出会った桃香は、その頃から可愛かったんだよね。
桃香は娘役で私は男役志望。
そんな二人だったのに、夢は宝塚から大空へと変わっていっちゃった。
今は共にCA訓練生。
人生なんて、どう転ぶかわかんないね。
ホント。
どう転ぶかね…。
「お兄ちゃんは、胡桃ちゃんが好きだったと思うんだ」
「それはナイでしょ」
「胡桃ちゃんは?お兄ちゃんのことどう思ってた?」
「好きだったよ」
初恋だもん。
誰にも言わないけどね。
「そうなんだ!お兄ちゃんに報告しなきゃね」
桃香のはしゃぐ顔に、あの頃の面影が見える。
楽しかったなぁ。
桃香の“お兄ちゃん”は私の初恋の人。
宝塚しか見えていなかった生意気な私に、優しい風を運んでくれた人なんだ。
「桃香。潤くんって優しかったね」
「そうかな?私には俺様だったよ」
「妹だからでしょ」
彼は、潤くんは、心のあったかい人だった。
もう一度…会いたいな。
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