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「胡桃さんは同期でナンバーワンって、桃香が言ってました」
「違いますよ。イチバンは桃香です。お母さんと同じように空を飛ぶ夢に向かって頑張ってますもんね」
「そりゃどうも」
彼は新納一也。
桃香の恋人で潤くんの同級生だった人。
一也さんの車で向かうのは、潤くんの三回忌法要。
出会った頃すでに潤くんは、“筋ジストロフィー”という難病を患っていた。
病のために手足が上手く動かせなかったけど、そんなのは気にならなかった。
潤くんのあったかい笑顔。
それだけで幸せな気持ちになれたんだもん。
今でも思う。
初恋って、無垢で可愛いよね。
月並みだけど大切な思い出。
「潤くんから胡桃さんのことを聞かされました」
「えっ!?」
「引っ越し前に好きな人がいたって。アナタでしょ」
「引っ越し前って、西宮ですよね」
「でしょうね」
桃香の家族は10年前に西宮から東京へ引っ越した。
大阪に住んでいた私は、土日のレッスンの時など桃香の家に泊めてもらうことが多かった。
だからって…。
潤くんは一度も“好き”なんて素振りすらも見せてくれなかった。
一度も…。
「桃香も同じことを言ってました。でも、違うと思います。潤くんは、私の他に好きな人がいたと思います」
「そうなんですか…。アナタだと思ったのになぁ」
「ご期待に添えなくてすみません」
「あ。いや。そんなつもりじゃ」
「どんな人だったのでしょうね?」
無垢な初恋はもう、遠い思い出だと思っていた。
初恋の人が好きだった女性。
やっぱり、気になるよ。
「ねえ。誰だったの?」
彼の写真に聞いてみたけど、ただ笑っているだけだった。
見知らぬ女性に嫉妬なんて、ガラじゃないよね。
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