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黄色く輝いた月の光が明かりのない静かな部屋に差し込んだ。
その光が希生を照らす。彼女は一枚の写真を見つめていた。
そこには昔の思い出の人がいた。
希生はそっと彼の顔を撫でた。理由は希生も分からなかったのだが、いつからか彼女は泣いていた。
この写真を見てしまうと希生は自分が自分でなくなってしまうようで怖かったのに、捨てるということは彼女には出来なかった。
忘れることもである。
これは思い出してはいけない物だったのかもしれない。
次の日には今まで通った高校に最後の登校をした。
その日の最後の時間を希生のお別れ会にクラスはするという。その時、彼女は本当の最後を痛感した。
前にでて挨拶をした。
「今まで、すごく楽しかった。本当に本当にありがとう。みんなと一緒に過ごした思い出を忘れません。さようなら、またね。」
そんなようなことを言ったのだろうか。頭が真っ白になって思い出せない。しかし、最後にもらったプレゼントを忘れることはないだろう。
親友が前にでて来た。
「希生。私達ね、あんたのためにこれ作ったの。」
差し出されたのは一冊のアルバムだった。そっと、ページを開いてみると彼女がクラスメイトを写したものだった。
「希生が撮ってくれた私たちの写真。あんたは私たちの写真を撮る役だったでしょ?あんたがいないと私たちを写してくれる人がいないんだけど・・・。」
親友は泣いていた。親友が言ったことは多分、一生忘れないと希生は思う。彼女を必要としていてくれた、このクラスを忘れないと思う。
希生の目に一筋の涙が光った。
希生は今いる場所から新しい場所へ生きていかなければならない。
思い出と共に彼女は誰も見たことのない見知らぬ明日へと歩いて行こうとしている途中だった。
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