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ネイムはそのまま銀行の責任者の元へ一旦向かう。
「裏口から出てよろしいですか?」
「はぁ、そちらにあります」
責任者が示した方向には表と似たような頑丈そうな扉があった。
『ネイム君、ここでのことはくれぐれも……』
モリアが笑みを浮かべ、人差し指を口元へ持っていく。
「了解致しました」
胸の前に手を持っていき、気をつけの体勢をとる。
騎士の儀礼用の挨拶の一つである。
背後から近衛騎士たちの視線を受けながらも、ネイムは一定の歩調で裏口から銀行を出た。
「……ふぅ」
扉をちゃんと閉め、辺りに人がいないかを確認してため息をつく。
「まずはサクラを寮に返しとくか」
ネイムは近衛騎士たちの代わりに犯人を捜すこととなったのだ。
流石のプロでも、騎士見習いのネイムが自分たちを探したりしないだろうという裏を突くのがモリアたちの狙いなのだろう。
しかしサクラがいたらネイムは目立ち、近衛と同じように犯人捜しには効率が悪いのだ。
「今は部屋に入れたくないし、校庭に放しとくか」
そう呟きながら、サクラを括り付けた魔導灯の元へと向かう。
「……あれ?」
しかし、そこにサクラの姿はなかった。
柱にはサクラにリード代わりとして結んでいた荒縄が残されている。
どうやら切断されたようだが、疑問が浮上した。
この荒縄はサクラが噛みつかないように苦味を着けた特注品だ。
ならば噛み切ったとは考えづらい。
引き千切ろうにもサクラの首に負担がかかり、幼い肉体では耐えられない。
「……」
ネイムは切断された荒縄の先端を確かめる。
それは綺麗に整った切り口で、刃物でも使わない限りこうはならない。
さらに足元をよく見ると、僅かに血痕が確認された。
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