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見たこともない光景ですって?
そうでしょうとも。これは私の書いている絵なのですから。
綺麗な青い空、綺麗な青いごみ箱
美しい白い雲、美しい白いふた。
色とりどりの花、色とりどりのごみ。
あふれてやっと満ち足りたかのように安らいでいる静かな街。
人は、この絵を見て、これはなんの平和を描いたものですか、と聞くかもしれません。
あるいは、これはどんな世界の終わりでしょうかと。また、ごみ箱はいつまでも増え続けるのですか、とも。
残念ながら、今、万かも千かもしれないごみ箱が、無数にあるがごとき発言は、私にはできかねます。ですが、言えることもあるのです。それは、この絵は、私という老人が見ている街の姿なのだということです。ええ、もちろん、この絵のなかで。
このごみ箱に何が捨てられているのか、私という老人にはわかっているのです。
万とも千ともしれないごみ箱のなかが、こんなにあふれているのですから。
それはそれは、たくさんの、大きなものから、小さなものまでが捨てられているのです。
例えばある日、小さな川がごみ箱に捨てられた時には、たなごにめだかにどじょう、川の側に群生していた野草や野花、しまいには魚釣りの少年や老人までがごみ箱に一緒に捨てられてしまいました。
公園が宅地になった時には、公園ごと、シーソー、ジャングルジム、お砂場が、芝生やブランコでいつも一人で遊んでいた女の子ごとごみ箱に捨てられたそうです。
たんぼや畑もごみ箱に捨てられて久しいのですが、今でもスーパーには野菜やお米がたくさん並んでいるのは何故でしょう。
きっとまだ捨てられていないたんぼや畑が、どこか遠くに、あるのでしょう。その町では、雀の親子が仲良く鳴いていることでしょうね。
私の街には、もう、雀はいません。後生大事に、プラスチックの容器ばかり大切にして、私の大切な思い出のフィルムも手紙と一緒に、このごみ箱に綴じられてしまいました。
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