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「失礼する」
誰もいない、と思っていつつ挨拶をしながら襖を開けて部屋に入る。
今日の作業は、ここで終わりだ。きっと。
「何の用だ」
「えっ」
居た。居ないはずの人間が。
…くそ、あいつ、嘘ついたな!
挨拶してよかった。
「…大谷に掃除を頼まれた。不要なら失礼する」
「不要だとは言っていない」
「もう休むのだろう?」
「…」
床に入ろうとしていた直前に見えた。
…くそ、大谷め。
ここでやめたらまたチクチク言われるかもしれないな…。
「するならさっさとしろ」
「…はい」
許可が降りると思っていなかった。
石田眠たそうだし、軽くだけにしてまた明日にしよう。
「…」
「…」
空気が重い。
人が後ろにいるだけで、作業しづらい。
「…石田は」
「は?」
「豊臣が倒れたとき、どう思った?」
「…それを聞いて、何になる」
「聞きたくなっただけだ。…同じ境遇みたいなものだろ」
お館様も、豊臣も。
今は、会えないところにいる。
「…貴様と私は違う」
「…だな。石田の方が、辛い」
お館様は、まだ生きておられる。…武田は、まだましなのだ。
頑張らねば、お館様が帰って来られた時に笑われてしまうな。
「俺には、幸村も佐助もいる。…石田は?」
「…?」
「頼れる人は、居るか?」
「…そんなものは必要ない」
石田が、若干寂しそうに目を伏せたから。
俺は不覚にも、…石田を守ってやりたくなった。
「…俺のこと、頼ってくれても構わないから」
「何を言っている」
「俺は、西軍の一員として、刃を振るう」
少し笑ってやると、石田の血色が、ほんのりよくなった気がした。…なんだ、可愛いやつじゃないか。
「これからよろしくな、…三成」
「!!貴様、さっさと帰れ!私は床に付く!」
「あぁ、遅くにすまなかった」
幸村とは違う感じの微笑ましさだ。
…名前で呼んでも、拒否されなかったな。よかった。
「じゃあ、また明日」
「…あぁ。……鈴成」
「!もう一回…」
「さっさと去ね!消えろ!」
顔が真っ赤の三成が言うので、さっさと退散させて頂く。
…なんだ。割と解りやすくて可愛いやつじゃないか。
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