1人が本棚に入れています
本棚に追加
『ただいまー』
『あら、お帰り。ご飯できてるから着替えてらっしゃい』
『はーい』
私は荷物を置いて仏壇の前に座った。
『ただいま、お父さん』
父は、私が小さい頃に亡くなった。不慮の事故だった。周りに頼れる親族もおらず、母はパートをしながら家事をし、当時高校生だった兄が芸能事務所に所属して生計を立てるようになった。
この頃かな…私と兄があんまりしゃべらなくなったのって…―
『夏奈ーっご飯!』
『はーい!今行く!』
晩御飯を食べ終えて、あれからなんとなく兄の事を考えていた。
兄は可愛い物が大好きで、お菓子作りや裁縫とかが得意だった。いつも何かしらの行事には、ケーキとか作ってもらってたっけ…。
『私たち姉妹だったらよかったのにね!
お兄ちゃんがお姉ちゃんだったら、おそろいのお洋服とか着れたのに!』
…昔はこんな事も言ってたっけな…
可愛い物が大好きで、行動も乙女な兄だったけど、私はそんな兄が大好きだった。
だけど…―――
お父さんが死んでからお兄ちゃんは変わった――――
料理本や裁縫道具、大好きだった物は全部捨てて芸能界に行ってしまった。
それ以来、兄はケーキを作ってくれる事も手作りのぬいぐるみをくれる事も一切なくなった。
――まぁ、忙しいから無理なんだけどね…。
良くわからない感情がグルグル渦巻き、私は考えるのをやめて眠りについた。
最初のコメントを投稿しよう!