曖妹メランコリー

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『…そう。じゃぁ気をつけて帰るのよ』 『ありがとう…母さん。また帰る時に連絡するから』 夏奈が家に帰って来たかどうか母親に電話した。どうやらまだ帰ってはないようだ。 『あのバカ…どこ行ったんだ…』 ―…今頃、お兄ちゃんはどうしてるかな? もう夜の10時だし、やっぱ呆れて仕事に行っちゃったかな… 走って逃げたはいいが、行くあてもなかったのでまた公園に戻ってきた。 『外はやっぱり冷えるな…』 かじかんだ手を温めながら今日の事を振り返っていた。 …こんな事ならもっと素直になれば良かった。 お兄ちゃん、忙しいのにわざわざ家に帰って来てくれた。 久しぶりに会ったのに、素直になれなくてずっと拗ねてただけ…。 今更後悔してもしょうがないのにね。 お兄ちゃん…… 『やっぱりここにいた』 え?…――― 『お兄…ちゃん?』 なんで…?仕事は…? ずっと……探してくれてたの…? 『お前、昔から悩んだ時ここに来るのな』 私はうつむいて口をつぐんだ。 兄はしゃがんで私の顔を覗き込むような態勢でまた話し出した。 『…お兄ちゃんな、父さんが死んだ時、じいちゃんと約束したんだ。 父さんが死んでしまって頼れるのは俺だけだって…だから男らしく家族を支えてくれって』 私ははっとした。 だって、そんなこと知らなかったし一度も聞いたことなかった。 思わず口を開いた。 『だからって自分の好きなもの捨ててまで…っ』 『自分の好きなもの捨てるくらいの覚悟がなければ家族は支えられないし、 捨てても良いってくらい…母さんやお前の事が大切だったんだよ。 まぁ、タレントの話はたまたまタイミング良く来たからいい機会だと思って…… 』 また涙が溢れて来た。 兄がこんなに私たちの事を思ってくれていたなんて知らなくて。 『お兄ちゃ…っ!ごめんなさ…い…っ 私…私、素直になれなくて… ずっと寂しくて…っ』 『もういいよ。 ちゃんと言わなかった俺も悪い 不安にさせてごめんな…』 兄は子供みたいに泣きじゃくる私の背中をさすりながら優しくこう言った。 『家…帰ろうか』 私はうんとだけ言った。image=438810196.jpg
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