1.金曜日午後一時半。コンクリートが

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「うっ」背後から鶴見タロウの無念そうな声がした。 「東防中第一班、全滅! 第三陣地までハイポート、駆け足!」拡声器を通した教官の声が林にこだまする。「次、第二班! 班長は吉野サトシ、班員、市井コウジ、松浦アン!」  名取トウコは立ち上がり、銃を両手で頭上に掲げる。後ろにいた鶴見タロウが同じ姿勢でトウコを追い抜き、倒れたままのヒカリにねぎらいの言葉をかける。 「こんな訓練無謀ですよね」ヒカリがかすれた声で文句を言いながら立ち上がる。「林の中なんて、年に一回しか歩かないんですよ? しかも、自衛隊が隠れて撃つなんて──」  トウコに訴えるその顔は土と涙で汚れていた。 「うん。でも、サービスなんじゃないかな。こんなこと普通じゃ体験できないし」  トウコは冗談めかして言った。 「一班! ハイポート! 走れ!」 「ああ、鬼が怒鳴ってる」ヒカリはそう言うと、銃を頭上に掲げる。「あの人たち、こっちが中学生だってこと、時々忘れますよね」  確かに中学生だ。十五歳。しかし、普通の中学生ではない。二年半、兵士になる訓練を積んだ中学生。自ら、この道を選んだのだ。 (ヒカリもそうでしょ? 一人前として扱ってもらえるのは、喜んでいいことじゃないの?) 名取トウコは、足踏みしたまま待っている大柄な鶴見タロウに微笑むと、ヒカリを無視して駆け出した。 「名取さん、待ってくださいよう」  東都防衛学院中等部。陸上自衛隊教育隊の全面協力下で行われる夏季総合演習の初日だった。
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