1.金曜日午後一時半。コンクリートが

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 ホースの両端は陶器の丸いチップでふさがれている。チップの中心には穴が開けられ、そこから、剥き出しの《ラン》が、床に向かって伸びている。 右端から出た《ラン》は床をうねり、特殊なコネクターによってコンピューターに接続されていた。 左端から出た《ラン》も床を這ってから別の装置に繋がれている。 装置は、バッテリーや計測装置を内蔵した台座と、その上に設置された「ユンデ」によって構成されていた。 「ユンデ」は、人間の左手首から上を、機械で再現したものだ。左手を意味する弓手から、そのまま命名されている。 設計は工科大学の教授に依頼し、各パーツは東京大田区の金属加工工場が製作した。 その他のパーツも国内メーカー特注品で、ユンデには億に近い金が注ぎ込まれていた。外国製の汎用パーツを使えば安く作れたが、それを避けたのは、宗田武と滝沢智則の、メイド・イン・ジャパンだけで全てを賄うという強いこだわりのせいだった。 彼らが目指したのは日本独自の技術で世界を驚かせる事、さらには、強い日本の再生だった。 十五年前の大震災の後、政府は内政、外交に関する対応を誤り、迷走し、その結果、国は経済大国の座から滑り落ちてしまった。 かつて誇っていた技術大国ニッポンの栄誉も他国に譲って久しい。 数々の先進技術が海外に流出し、市場は模倣品であふれている。 安価な労働力を求めて生産拠点を海外に移した副作用のひとつだ。日本はグローバリゼーションの海で溺れていた。  リジェネレイタブル。《ラン》には日本再生への願いが託されていた。
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