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滝沢智則はヘッドセットを装着すると、マイクに向かって小声で「グー」と呟いた。
するとユンデは即座に、軽やかな金属音とともに拳を握る。続けて「チョキ」「パー」──デジタル変換された滝沢の声が《ラン》を通して伝わり、ユンデを動かしたのだ。
「準備できました。社長がやります?」
滝沢が宗田武を見て言った。
「いや、滝沢、おまえがやれ。おまえにはその権利がある。もちろん、責任もな」
社長というよりは柔道部のコーチを思わせる宗田が、冗談めかした口調で言った。
「あははは」
笑いながら滝沢は白衣の前をきちんと留め、耳栓をした。他のスタッフたちもそれに倣い、配布されていた耳栓を詰め込む。
「始めます」
スイッチを入れると警告音とともに強化ガラスブース内の赤色灯が明滅する。
「十秒前」
一同の視線がブース内の射撃台座に固定された八九式5.56mm自動小銃に集まる。陸上自衛隊が二〇一〇年代まで標準配備していたアサルトライフルを実験用に改造したものだ。
「九秒前、八秒前、七秒前──照準」
照準スイッチを押すと、照準用のレーザーポインターがラン・システムの中央部に赤い点を描く。調整は完璧だ。銃の設置を担当した元自衛官の君島浩二が小さく息を吐き出す。
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