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幸せの絶頂だったその時は、
クリスマス前日に終わりを告げた。
恋人達が浮き足立つクリスマスイブの日、できた指輪を彼女に見せようとポケットにしまい、待ち合わせ場所で待っていた。場所は街の外れにある山の山頂で、突き出た崖からは街並みが一望できた。
滅多に人の来ないその山は真っ白な雪に覆われていて、そこから見える街並みはクリスマスの飾りで綺麗に彩られている。
綺麗な景色を眺めながら
待てば、待ち人が来たのが分かった。振り向いて、驚いた。
彼女はひどく蒼い顔で、泣きそうだった。
心配する自分に彼女は静かに語った。
彼女が何者で、なぜ自分の下にきたのか。
組織を裏切ったセレに対しての、追っ手として派遣されたという彼女に、狼狽を隠せなかった。
街で逢ったのは偶然ではなく、すべて組織に仕組まれたことだった。
ただ一つ、組織の意図しないことが、彼女が裏切り者を愛したこと。
沢山ウソをついていた。
ただその想いだけは偽りではないと、彼女は言った。
そして、二人の関係は組織にばれ、もう共にいられないということ。逃げようといった。
一緒に逃げよう。
自分が守るから。
もう天翔の時のように一人になんてしないと誓った。
しかし彼女は、できないといった。
その理由を聞かされた途端、彼女の体から聞きなれた音が聞こえた気がした。
―死の時を告げる時計の音。
それが何であるかなんて、その作業をしていた自分が一番よく知っていた。
助けることが不可能なことも。それをしたのが、自分を嘲った男であろうことも。
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