誕生日

6/25
前へ
/27ページ
次へ
向こうから人の歩いてくる気配を感じ、顔を挙げればバットがいた。 バットはこちらと眼が合うとあからさまに嫌そうな顔をして、眉をよせた。 人間が嫌いだという彼には、自分はあまり好かれていないようだ。 「・・一人のときでもへらへら笑うんだな、お前は。」 バットの声にセレは一瞬眼を見開いて、次いでいつもの笑顔を浮かべた。 「笑う角には福来る、なんて言葉もありますし、笑うことにマイナス要素があるとも思えませんよ? だったら笑顔の方がいいでしょう。」 「…お前みたいな胡散臭い笑顔の奴は信用ならん。 見るだけで不愉快だな。」 バットは言い捨ててさっさとすれ違っていってしまった。 「胡散臭い・・ですか。」 呟いてセレは苦笑いした。 笑顔をつくるのは自信があったのだが、どうやら通じなかったらしい。 自室に戻り、ベットに腰掛ける。 窓の外をぼんやり眺めながら、思い出す。 思い出したくもないのに、もう一つ、誕生日を喜べない理由を。 いや、誕生日だけでなく、この冬すべてが嫌いな理由を。
/27ページ

最初のコメントを投稿しよう!

0人が本棚に入れています
本棚に追加