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―そんな場所で、手を差し伸べてくれたのは。
その地獄で、十年生き抜いたという、自分と同じ年の青年だった。
天翔と名乗ったその男は、太陽のようだった。
壊れかけていた自分の心を優しく慰めてくれた。
地獄にいてもなお笑顔を失わない天翔は、自分にとってそこでいきる糧だった。
天翔が側にいれば、笑うことを思い出した。
それまで、作り笑いさえ忘れていたのに、天翔のもとにいると自然と息が吸えた。
そんな天翔に別れを告げられたのは、出会ってから一年ほど経った日のことだった。
『今ならお前をここから連れ出してやれる。』そういって、地獄からセレを逃がす為に、一人組織に残った男がいた。
守るように自分の前に立ち、逃げろと叫んだ天翔のことを今も夢に思い出す。
無価値な自分を生かしてどうすると、自分が残ると言いたかったのに、言えなかった。
そうして天翔を置いて、独り組織を逃げ出した。
今も思う、なぜそこに残らなかったのか。
天翔を一人にしたのか。
違う道を選んでいれば、
「彼女」と出会うこともなかったのに、と。
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