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組織を出て、隠れるように暮らしていた。
親切な中年の女性が、店の手伝いをすることを条件に空き家を貸してくれ、そこでひっそりと生きていた。
そんなある日、街を歩いているとき、「彼女」に出会った。
一目で体調を崩していると判断できる女性に、慌てて駆け寄ると同時にぐらりと傾いだ体を抱きとめた。
家に連れて行き看病した後、眼を覚ました彼女は言った。
行くあてがないからしばらくここにいさせて欲しいと。
元々自分も借りている家だ、貸してくれている女性に聞くと、
彼女が住むことを快諾してくれた。
その日から彼女との同居生活が始まった。
リンネと名乗るその女性は、初めは固い表情をみせていたものの日を追うごとに笑顔を見せてくれるようになった。
―その笑顔は、華のようだった。
彼女に恋心を抱くのにそう時間はかからなかった。
想いを告げれば彼女は笑って受け入れてくれた。
初めて、生きたいと、幸せになりたいと願った。
父に売られ生きる価値はないと思った。
組織で両腕を血に染め幸せを願う資格がないと放棄した。
だけどその時だけは、生きたかった。
彼女となら幸せになれると信じていた。
彼女と出会ってから一年、結婚の申し込みをした。
最初はためらっていた彼女も最後には頷いてくれた。
結婚は、クリスマスの日に決めた。
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