野村仁 、10月

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「…………」 とぼとぼ……という擬音がお似合いだろう。 自転車を引きながらゆっくりと川沿いを歩いていた。 「みんなどんどん上手くなるんだろうな……ってかS1高橋さんに取られるなこりゃ、ははは」 らしくないネガティブな言葉を呟く。 そんな彼の前をランニングしながら近づく人達がいた。 (……あいつら) 野村も気づく。 東賀第一高校。新人戦でベスト4に入り強豪の仲間入りした学校の選手が野村の前を走ってくる。 全員が一年生ということで、野村の知り合いも沢山いる。 野村はそれらが近づくにつれて視線を送る。 手を上げて声を掛けようとする。 しかし、すぐにそれをやめる。 ダッダッダッダッ 西口、萩、竹内を先頭に野村の横を過ぎていく。 野村に気づいていただろう。だが誰も見向きもしない。 どこか違うところを意識しているからこそだろう。 しかもその中でも竹内に至っては、野村のことを誰かもわからないでいただろう。 彼にとって眼中に無いことがわかる。 野村はあっという間に過ぎていった群れを見送ることなく、その場で立ち止まっていた。 そしてすぐにその場にいることさえも嫌になる。 すぐに自転車に乗った。 ズキッ 強引に乗ったせいで痛みが生じる。 「ちくしょう……ちくしょう!」 また呟く。 他の選手の姿がまた彼を焦らせる。 それでもバドミントンはできず、それが苦痛である。 彼はまだ1人だった。 1人じゃないことに気づけていなかった。
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