野村仁 、10月

11/17
前へ
/170ページ
次へ
丸川高校体育館 パン! 内田のスマッシュが決まる。 「はやぁ!」 21ー10 内田の圧勝。丸川には内田の相手になる選手はいない。 いや、内田だけでなく他の選手にとってもあまり変わらない。 だがそれても構わない。 弱いところから強いところまで経験する。 自分より下の選手にきっちり勝つのも、トーナメントで勝ち上がるには大切な練習だ。 「内田、体力配分を気を付けろ。そのペースで何試合もできるのか?」 内田に求めるのは他の人とはひと味違う。 木村は躊躇なくダメ出ししていく。 「はい、ありがとうございました!」 (そうか、全力でやればいいってもんじゃないのか) 考えながら他の試合に目をやる。 高橋がネット前から豪快に叩く。 「めっちゃ全力じゃん」 思わず内田が言うが、珍しく高橋は機嫌が悪いのだと悟る。 (野村のこと……心配なんだろうな……わかってんのかなあいつ……) 野村がいなくなってから部活の雰囲気が何となくおかしいことに誰もが感じていた。 彼の明るさが部活を盛り上げていたことがよくわかる。 (高橋……) 高橋の様子が気になっていたのは桜井も同じだった。 自分の試合をしながら何度も高橋の試合のスコアを見る。 「……らしくないっすね」 「あ?」 桜井が振り返ると、相馬にシャトルを手渡される。 「他の人のこと心配するような人じゃないでしょ」 「んなことねえよ、俺部長だし」 「そうじゃなくて、今試合中っす」 要は試合に集中しろと相馬は言いたいのだろう。 「……」 「サーブっすサーブ」 「わーったわーった」 桜井が前に行く。 (相馬の言う通りかもしんねえな) 人のことを心配してる場合ではないのだ。 桜井が構える。 (やっぱ俺達はバドをやり続けて野村を待つしかないんだろうな、待ってるから早く戻って来やがれバカ野郎) そう願う桜井の後ろ。 (野村は絶対大丈夫っすよ、俺にはわかる) 相馬が構えながら思うのだった。
/170ページ

最初のコメントを投稿しよう!

463人が本棚に入れています
本棚に追加