野村仁 、10月

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その日から更に数日が過ぎる。 すっかり口数が少なくなった野村は、できるだけバド部の人に会わないように行動していた。 放課後はすぐに帰るし、昼休みは教室から出て弁当を食べる。 弁当を食べる場所で一番多いのが屋上だ。 その日も昼休みになると弁当片手に素早く屋上に向かう。 この生活にも慣れてきた。むしろ、このままこんな生活が続くんじゃないかと思い始めていた。 だが、今日は屋上がいつもと違った。 「えー!マジで!?」 「マジマジ!」 「ははは!」 女子生徒のグループに先を越されてしまった。 初めて場所を取られたし、もしかしたらあのグループはその場所を今後も使うかもしれない。 「ちえっ」 誰の目にも触れない場所を探しに戻る。 だが、既にあらゆる場所で誰かが弁当を食べていた。 教室からどんどん離れる。 「何してんだ俺?」 自分の行動が虚しくなる。 彼が最終的に着いたのは体育館への通路だ。 (こっちは何も無いよなー) 何も無いどころか、体育館で遊ぶ生徒がいるだろう。 行くまでもないと思ったが、一応行ってみる。 そして歩きながらその先にあるのが体育館だけでないことを思い出す。 そう、通路の途中に下に降りる階段があることを。 (地下があるじゃん、あそこって確か……) 地下には卓球部が練習している場所がある。 天井は低いものの広さは申し分無いほどある。 卓球台も20台ほど置いてある。 この場所なら…… 「おっ、誰もいない、やった」 やっと見つけた。 誰もいない場所。 暗く静かな場所は自分にはお似合いだ。そう思っていると…… ガシャン ガシャン 何やら音が聞こえてくる。 「……何の音だ?」 野村が耳を澄ますとその音が絶えず聞こえてくる。 ガチャン 錘と錘がぶつかり合う音を聞いてその音の正体がわかる。
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