野村仁 、10月

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卓球部が練習するコートの奥にもうひとつ狭い部屋がある。 (思い出した……トレーニングルームがあるんだっけ) そう、だからそこで誰かが筋トレをしてるのだろう。 (凄いな……昼休みから筋トレか……) いったい誰がこんな時間に筋トレしてるのか、もう他の場所に移る気もない野村は、誰かが筋トレしている様子を覗いてみようと思った。 ガシャン ガシャン その音のペースよりちょっと早く、足を進めていく。 ガシャン ガシャン 何気なく覗いた野村は、目を疑った。 マシンを使って筋トレをしてるのは生徒ではなく………… 1人の教師だった。 「木村……先生?」 木村は野村に気づいていない。 真剣にトレーニングをしていた。 「くっ、……ああっ!」 限界を超えれば声を出して乗り越える。 その姿はまるで一流の選手のようだ。 ーー今あの人はバドミントンをしている、 本格的にだ。 相馬の言うことは本当だった。 野村は全身の力が抜けた。 その木村の「本気」の姿に…… 野村は弁当を食うことも忘れてしまった。 「……先生」 僅かに開いたドアを少しずつ開ける。 「くっ!!…………ん?野村?」 ガシャン! 錘と錘が思い切りぶつかる。 木村が野村に気づいた。 野村が涙目でこちらを見ている。 「先生……何してんすか?……」 「……筋トレだ」 「…………」 (いや、わかるけどさ……) 野村は木村の上半身に目をやった。
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