野村仁 、10月

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ワイシャツは脱いでおり、Tシャツが汗だくになっている。 (追い込み過ぎだろ) 黙る野村を見ながら、木村は何か考えながら突然喋り始めた。 「俺は四年前にアキレス腱を切り、それ以来運動というものをまともにしたことがない。その俺がまたバドをしようとした時、いきなりプレーしたらどうなると思う?」 「……え?」 野村が戸惑う。木村が続ける。 「また怪我するだろうな、下手したらまたアキレス腱だ。だから俺は早くプレーしたい気持ちを抑えて先にトレーニングをしている。これはリハビリでもある」 そこまで聞いて野村は理解する。 木村は今自分の為に話しているのだと。 (俺も……同じ?) 「俺はもう一度バドミントンプレイヤーになる、お前たちの相手もする」 木村が野村をずっと見つめながら話し続ける。 その言葉一つ一つが野村の心を刺激する。 (俺は……) 自分の溜めてきた思い、不安。 それらが放出されそうになる。 「俺は……」 「ん?」 木村が堂々とした様子で耳を傾ける。 野村が泣きそうであるのも気づいていた。 「俺は……間に合うんですか?」
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