野村仁 、10月

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不安を吐き出す。同時に涙がこぼれる。 弱々しくなった生徒を、木村はしっかりと見ていた。泣きながら座り込む。 待っていた。 野村が不安を吐き出す時を。 「俺……黒田さんどころか……内田や高橋さんにまで置いてかれそうで……足……また捻りそうで恐いし……もうどうしたらいいかわからな… 「間に合う」 崩れそうな野村を支えるような一言。 堂々と、そして真っ直ぐに見つめる瞳が突き刺さる。 (嘘だ……強がりだ……) 拒もうとする野村の両肩を木村は掴む。 「俺を信じろ野村。もう二度とお前に捻挫させない、そして、お前をあの世界に立たせてみせる」 (う……そ……) 強がりじゃない。確かな自信を持って木村は言っている。 野村の涙が更に溢れるところで、木村がそれを止めようとする。 「泣くな野村……立て、野村」 木村が先に立ち上がる。 「う……うう!」 いっぱいの涙をこらえながら、野村はゆっくりと立ち上がる。 (頑張れ……野村……) もう一度前を向け。 まだお前は若い。 何度だってやり直せる。 そして、 何度でも「目指せる」 木村の思いは…… 十分に伝わった。 立ち上がった野村は両腕を使って一気に涙を拭き取る。 涙を除いた瞳には久々に輝きが見えた。 「俺……バドミントンがしてえ」 その言葉に木村は思わず微笑んだ。 野村の中の迷いを木村は取り除いた。 誰かを信じられるからこそ、悲しいこと、辛いことを乗り越えられる。 それは木村がかつて生徒達に教えてもらったこと。 野村にもしっかり伝わっただろう。 約3週間に近い野村の挫折は、木村によって救われた。 野村はインターハイ予選に向けて始まった第2章は完全に出遅れた。 だがまだ間に合う。 彼が諦めず「いま」を進もうとすれば、 必ず間に合う。
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