野村仁 、10月

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野村は屋上にいた。 家には帰らず佇んでいた。 皮肉にもその場所は、かつて木村や相馬が逃げるようにタバコを吸っていた場所だ。 ズキツ 右足の奥から体全体へとその痛みが伝わってくる。 (…………) その痛みが彼を苦しめていた。 彼の脳裏に過る怪我した瞬間は全く頭から離れない。 挫いた感覚。 癖になったのは体だけではなく、 恐らく心も…… 思い出すと微かに体が震えていることに野村は気づく。 「時間ねえのに……何してんだよ俺……」 怪我のタイミングの悪さが彼の心を砕く。 何より彼は今、 前みたいにバドができるとはとても思えなかった。 生まれて始めて、バドをすることに恐怖を感じている。 捻挫を舐めた結果だ。 (どうしたらいいか……わかんねえ) 彼はただ黙りと、青い空を眺めていた。 その目からは涙がこぼれる。 バドができない状況など、彼には耐えようがないのである。 体育館になど行きたくなかった。 体育館で皆にどんな顔をしたらいいかわからない。 彼は次の日も、その次の日も体育館には来なかった。 そして彼の放課後は屋上で過ごすことが日課になりかけていた。 携帯のアプリゲームの単純な動きを繰り返し、目で追うだけ。 サッカー部や野球部の掛け声が響くなか、野村はただ孤独だった。
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