野村仁 、10月

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野村が部活に来なくなって早4日。 内田は野村が一向に顔を見せないことに流石に苛立ちを覚えていた。 「翔……俺はやっぱそっとしといた方がいいと思うよ」 歩きながら春日が言う。 「そんなわけいかないだろ!やっぱ俺らがガツンと言ってやんなきゃ!」 こうなると内田は聞かない。 (ガツンと……て、そこまで悪いことしてるわけじゃないと思うけど……) 勢いよく内田がドアを開ける。 その音でそのクラスの生徒が皆振り向く。 「……内田?」 野村もすぐに気づいた。 そんな野村に内田は歩み寄っていく。 そして野村の目の前に立つと、真っ直ぐな目で野村を見つめる。 それはまるで、木村に指導をお願いしに行ったときの内田の姿と同じだった。 野村は目を逸らす。 「何で部活に来ない?」 「行ったってバドできねえもん」 野村がすぐに返答する。 「ほ、ほら筋トレするとかさ、あるよね、ね?翔?」 と春日が間に入るが内田は聞いていない。 「みんなお前のこと心配してんだぞ?……らしくねえんじゃねえの?」 「……何が?」 「いつもの馬鹿元気はどこいったんだよ?お前そんなんじゃ黒田さんや竹内に置いてかれんぞ?」 黒田や竹内の名前は野村も少し反応を見せる。 だがそれはいい意味ではない。 「お前シングルに専念して誰よりも強くなりてえんだろ!?だったら!」 「うるせえよ!」 沈黙が走る。 野村は席から立ち上がるとできる限り早足でその場を去っていく。 「野村!」 内田が叫ぶが聞かない。その後内田は春日に止められ教室を後にした。 そして先に教室から出た野村は廊下を早足で抜けていく。 とそこに、1人の生徒が前にいた。 「野村……君?」 (田川……) 野村の目に田川が写ると、野村はもう一度逃げるように早足になり田川の横を抜けていく。 (野村君……) いつになったら彼女は野村のマネージャーができるのだろう。 先が見えなかった。 階段を上っていく野村はやがて見えなくなる。 (……………野村?) 相馬は野村が階段を上っていくところを見ていた。 時間はもう昼休みが終わり授業が始まろうとしているのに。
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