野村仁 、10月

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ズキツ…… 痛みが響く。 午後の授業が始まったのに、野村は屋上へと逃げてしまった。 (…………) 野村の頭の中にあるのは内田の言葉ではなく、田川の心配した表情だ。 それが自分のせいだとわかっていても、どうもできない。 バドがしたいのかしたくないのかもわからない野村は、体育館に行く勇気などない。 (やべ……サボっちまった……) 授業をサボったのは始めてだ。 どうしようか迷ったが戻る勇気はない。 「はあ……」 ため息をつく。 空は今日も快晴。 そんな空をまた眺めている時だ。 「らしくねえな」 誰かの声がする。そしてまた同じようなことを言われる。 「相馬?」 自分の横にいるその男の存在に驚く。 「お前、何授業サボってんだ?」 「それはお前もだろ!」 「まあ、俺前までサボり常連だったしな」 野村のつっこみを軽く切り返す。 「……ふん」 目を逸らし、野村はグラウンドを眺める。 「…………」 相馬も野村もしばらく黙っていた。 だが、野村の方が我慢できなくなる。 「お前、何しに来たんだよ? 」 「何しに来たってここは俺が元々よく来てる場所だ。俺と木村先生の喫煙所だった」 「き、喫煙って……タバコ吸ってんのか!?」 「昔の話だ」 また軽く切り返される。 「俺もあの人ももうここにはいない。木村先生は変わった」 「……変わった?」 その意味を野村はわからない。 「今あの人はバドミントンをしている、本格的にだ」 「……」 (じゃあ木村先生と一緒に練習してんのか?……いいな……) そんなことを考えていると、相馬は勝手に話し始める。 「お前、いつまでもそんなしてるんならタバコでも吸ってろよ」 「はあ?吸うわけねえだろ、タバコ吸ったら体力落ちんだろ?」 そう言うと相馬は少し笑う。 「ふ、やっぱバドのこと意識してんじゃねえか」 「……あ」 野村が黙る。 「お前にここは似合わないよ」 何か台詞を照らし合わせるように相馬は野村に向かって言う。 それは相馬が木村に言われた言葉だ。 「……意味わかんね」 野村がそう言うと、相馬はその場を離れようとしながらもう一言、 「なあ野村、バドすることだけがバドの練習なのか?俺は違うと思うぞ、お前の足りないもの、技術だけじゃないはずだ」 そう言って相馬は去っていく。 「…………」 何も言い返せず、野村はただ途方にくれていた……
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