野村仁 、10月

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「東さん……どうしたんすか?」 「野村君……だね、君こそ何してるの?」 「いや、ちょっと……」 東は野村の右足に目をやる。木村から色々と話を聞いている。 「男子は今日練習試合だよ」 「練習試合!?何処とですか?」 「え、えっと丸川だったはず、あんまり強くないって言ってたけど……」 (練習試合……いいな……) 野村の知らない間に坂神バドミントン部は先に進んでいた。 練習試合。木村が次の夏までに求めるのは経験だった。 強い高校から弱い高校まで、手当たり次第に練習試合を申し込んである。 今日はその一回目。同じ地区の三部の高校との練習試合だ。 その練習試合に参加してないのは野村だけだった。 「そう……ですか」 また自分だけが取り残されたような気持ちになる。 「あ、よかったら今から一緒にいかない?とりあえず女子にラケット渡してくるから待ってて」 そう言うと東はドアを開けて体育館の中へ入っていく。 「お疲れ様でーす」 「こんにちはー!」 女子の揃った大きな声が響く。 ちょうど休憩時間だったのか、吉野達が歩み寄る。 「れいこさーん!ラケットありがとうございます!!」 「美代ちゃーん、相変わらずかわいいね、はい、ラケット」 背中にあるラケットを手渡す。 「やったあ!玲子さん今から練習試合行くんですか?」 吉野が言うと東は嬉しそうに頷く。 「そ!今野村君に会ったから一緒に行こうと思ってるの」 「え?野村君いるんですか?」 吉野が驚く。 「うん、そこにいるよ……ってあれ?」 体育館の出口に目をやった東が続いて驚く。 そこに野村の姿はなく、体育館から出て見渡してもその姿はなかった。 「え?あれーーー?」
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