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暗くて、よくわからなかったはずだが、すすり泣く音で雛音は俺が泣いていると気づいた。
「どうしたの?」
心配そうにこっちをうかがっているのがわかる。
「雛音、…俺、どうしたらいいかわからない」
「え?」
「大切なものが壊れちゃったんだ」
詳しくは言えなかったけど、雛音は何も聞いてこなかった。
ただ、黙っていた。
月を見て俺の泣き声を聞いてるのかいないのか。
ふと、雛音が口を開いた。
「だったら恭はそれを治さなきゃね」
え
俺は雛音を見た。
相変わらず月を見ていた。
だが、口は動き続ける。
「だって壊れたままじゃ嫌だよ。大切なものなんでしょ?」
目線が俺へと変わる。
雛音は微笑んだ。
そうだ、俺は治そうとしていない。
ただ、流れに身を任せていただけだ。
壊れたなら治さなきゃ。
完璧には無理かもしれない。
だが、治るかもしれない。
俺は涙を拭い、咳払いをした。
深呼吸をし、
「ありがとう、雛音」
笑った。
その日見た月を俺は忘れない。
その日飲んだコーラもなんだか今までで一番美味しかった気がする。
そんなこといったらきっと雛音は大袈裟と笑うだろう。
でも、それくらい美味しかった。
それくらい雛音に救われた。
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