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もう日が落ちている。
街灯に光が灯り始め、暗くはないが明るくもない公園に俺たちはいた。
雛音の後を追う形でずっと歩いている。
すぐそばにある雛音の背中がなんだか遠くに感じた。
「雛音…」
たまらず、名前をつぶやいた。
すると雛音は足を止めた。
俺も合わせて足を止める。
前の雛音の背中はぴくりとも動かない。
俺も動けなかった。
「…恭、覚えてる?」
「え?」
雛音はゆっくりと指を指した。
そこには小さな遊具。
幼い頃、近所の友達と雛音とよく遊んだ遊具。
「かくれんぼしたじゃん。幼稚園上がる前」
あぁ、弱々しく応える。
「私が鬼になって、みんな隠れてさ。見つけるんだけど、恭だけ出てこないの。皆で必死になって探すんだけど、恭はいなくて。どこいったのかわからなくて皆で泣いてさ。そしたら恭はケロッとした顔ででてきて……どこ行ってたの?って聞いたら……トイレ行きたくなったから家にいたって」
雛音は続ける。
「何も言わないで行っちゃうんだもん。びっくりしちゃった」
雛音はゆっくりと振り返った。
「また、恭は何も言わないでどこか行くつもりなの?」
雛音はまっすぐに俺を見つめていた。
その目が、怖かった。
俺の返答次第でこの関係は壊れるかもしれない。
嫌われるかもしれない。
「雛音に…ずっと言おうと思ってた。でも……言えなくて」
「私立…行くんだよね」
「うん……俺、私立に行きたいんだ。まだ行くかは合格してないし行けるかどうかはわからないけど…そのつもり」
「そっか……なんで?」
雛音の澄んだ瞳が俺を見つめる。
その目はどこか悲しげで、目を逸らしたかったのに、そらすことができなかった。
「ごめん……理由は言えない」
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