華原 恭

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その時 「きょーうー」 声が聞こえた。 この声は大好きな雛音の声。 「恭いる?」 窓の外から聞こえる。 俺の部屋と雛音の部屋は互いの窓を挟んで向かい側の位置だった。 そんなことはわかってる。 だが、このタイミングで…… 「いないかな?」 俺は急いで涙をぬぐい、カーテンを開けた。 「あ、恭いるじゃん」 雛音は俺に気がつくと、嬉しそうに微笑んでくれた。 俺は窓を開ける。 泣いていた俺は、部屋に電気をつけていなかった。 そして雛音も電気をつけていない。 しかし、なぜか明るい。 俺は目線を空に向けた。 それを見て、雛音は笑う。 「月、やばいよね」 満月。 それはそれは綺麗な満月。 月明かりが俺たちを照らした。 「月見しようよ!と思って」 雛音は俺の部屋に向かって、缶を投げた。 それをあわててキャッチする。 ナイス!と雛音は笑った。 「泡が出てきたらごめんね」 コーラだった。 俺は、コーラを開けて空を見た。 「綺麗だよね。空をたまたま見たらさ、恭の顔が浮かんで。思わず呼んじゃった!ごめんね、遅くに」 時刻は23時。 でもそんなの関係なかった。 俺はコーラを握りしめて、声を押し殺し泣いた。 「恭?」 雛音に気づいて欲しかった。 でも、気づかれたくなかった。 なんて説明すればいいかわからなかったけれど、そんな気持ちだった。
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