海が叫ぶ夜で

桂美沙

化け物の声は廊下側から窓際に移動した。今は窓際の一番後ろ辺りにいるのだろう。

そしてこのまま化け物が黒板の方へと歩いてくれれば、その隙に逃げられる。

これはタイミングが大事だ。

早く出すぎても、知能のある化け物だからすぐに後ろのドアから出て廊下を塞がれてしまう。

だから化け物をぎりぎりまで引き付ける必要がある。理想は一番前の席ぐらいだ。

それなら化け物に後ろのドアから出て廊下を塞がれる心配もないし、直接追いかけられても逃げられる距離だ。

「ドコニ……イルノ？」

化け物の声はだんだん近づいてきた。

まだだ……まだ駄目だ。

声の位置からして、たぶん化け物は今後ろから2番目くらいの席を歩いているはずだ。

それでも化け物が近づいているとわかると、今すぐに飛び出したい気持ちになる。だがそれをぐっとこらえた。逆に今飛び出したら終わりなのだから。

しかし突然、化け物の声がピタリと消えた。