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長い旅
2014/3/2
とーが社会に出て2年目の夏だったかな。
暑い日だったと思う。
かぁちゃん(ばぁちゃん)は狭いお勝手で何やら作っていた。
今の家じゃなくて、昔住んでた小さな借家な。
茶の間には、久しぶりに帰省したとーと、今は亡きじぃちゃんの2人。
2人で昼間からビールを飲んで、そのままのコップに一升瓶から直接注いだ日本酒を2杯も飲んだ頃かな。
ほろ酔いのじぃちゃんが話し出したよ。
『ひろしよぅ。お前がまだ、うんと小っちゃい頃だなぁ。
今みたいにかぁちゃんがお勝手にいて。
かぁちゃんと結婚してから、まだ肉なんか買った事が無くてなぁ。
買った事が無いんじゃなくて買えなかったんだけどよ。
今みたいに気軽に肉を食うなんて時代じゃなかったんだよ。
世間じゃ普通に食ってただろうけどな。
給料日だったのかなぁ。
その頃は俺も勤めをしてたからよ。
かぁちゃんが初めて豚肉の一番安いヤツをちょっとだけ買って来たんだよ。
それを醤油かなんかで炒めてここに持って来てな。
またお勝手にメシと味噌汁をよそいに行ったんだよ。
焼けた肉と醤油の匂いがたまんなくてな。
肉なんてもう何年かぶりだったから。
で、どうしたと思う?
・・・・・
俺はかぁちゃんに見つからないように一口だけ食ったんだよ・・・
お勝手の方を気にしながら、見つからないように・・・
かぁちゃんだって俺と同じだけ肉なんか食ってなかったのにな・・・
美味かったなぁ。
肉ってこんなに美味いのか!っていうくらい・・・
人間なんて、腹が減ったら醜いもんでよ。
俺は今だに、その一口の肉を後悔してんだよ・・・
美味かったから余計にな。
何であと少しかぁちゃんを待てなかったのかな?ってよ・・・
それからは、かぁちゃんにもお前達にも、食いたい時に肉ぐらい食わせてやりたいと思って頑張って来たんだよ。』
飛竜、風花、颯。
我が家はそんな歴史の上に成り立ってる事を忘れんな。
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