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旅館の裏口につくと息子はまだ入ってこないでね、と言いながら小さく扉を開けた。
息子が中に入って数秒がたつ。
「入ってきていいよ!」
龍久は息子の声がすると同時に、わくわくしながら扉を開けた。そこには旅館のスリッパを天に向かって積み重ね、てっぺんに顔が貼りつけてある龍がいた。
「すごいでしょ! 1人で作ったんだよ!」
息子はこれでもかと胸を張る。
「すごいなぁ!」
龍久は何度もスリッパを重ねなおしながら、一生懸命に龍を作っている息子の姿を想像して、くすりと笑った。
「でしょ! 今年はとうちゃんの年なんでしょ? これあげる! とうちゃん大好き!」
息子の何気ない言葉で龍久の視界がうっすらと歪む。
「とうちゃんのために作ってくれたのか。ありがとう、ありがとう」
龍久は涙を隠すように息子を思いっきり抱きしめた。
――多分、それは、すぐ近くに家族の温もりがあるからだろう
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