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「うわぁあっ……ハァッハァッハッ」
男は声をあげながら飛び起きた。
「龍久先輩、大丈夫ですか?」
心配そうに顔をのぞいてくる後輩に龍久はあぁ、と掠れた声で返事をする。
「またあの夢ですか?」
「……まぁな」
龍久は顔を歪めながら立ち上がる。隅の方に置いてある紙コップを1つ手にし、コーヒーを注ぎ込んだ。
「どんまいです。あ、もうすぐ昼休みが終わりますよ」
「おう」
コーヒーを一気に喉に流し込むと紙コップを苦しそうに握り潰した。
――――
――
龍久は電車から降り、夜道を難しそうな顔をして歩いている。深くため息を吐くと、まるで子離れができない親のように追いかけてくる月を見上げた。
――はぁ、またあの夢を見てしまった。あいつに相談したら、昔母に苦労させたことへの罪悪感からきた夢ではないか、と言っていたが、果たしてそうなのだろうか? まぁ、女手ひとつで俺をここまで育て上げてきてくれたのは、紛れもなくあのおかぁちゃんだ。俺が惨めな思いをしないように、旅館の女将として尿に血が混じるほど必死に働いてくれたのも俺のおかぁちゃん。俺が一番迷惑をかけたのも、もちろん大好きなおかぁちゃんだ。あいつは親孝行でもすれば、夢は見なくなると言っていたが……。
龍久は再度ため息を吐き、夜空を見上げる。今まで追いかけてきていた月は襖の隙間から覗いている人のように、雲の間から顔を出していた。
――親孝行って何をすればいいのだろうか? 昔のように肩たたき券でも作ればいいのか? そう言えば俺の財布の中には、息子から貰った肩たたき券が入っているんだった。俺にとっちゃこれは、お守りみたいなモノだからなかなか使えないんだよな。というか、俺は息子にとって良い父親なんだろうか? 父親がいない俺にとって父親とは妄想の産物だ。何度、もし父親がいたら……と考えたことか。俺は俺が求めていた父親を演じているが、それはただの自己満足にしかすぎないのかもしれない。息子からしたら嫌な父親なのかもしれない……。はぁ。俺はおかぁちゃんからあの物語のような龍になるように、とつけられた名前に負けているんだ。あの夢のもう1つの原因は、多分俺の自信のなさだろう。俺は息子に対してさえ、龍になれていない……
キキーッ
「うわぁあっ」
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