足音の無い男

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「ちょっと、聞きたいんだが」  先ほど入ってきた青年がカウンターの前まで移動すると、不意に店内が静かになった。男達は青年の存在にやっと気がついたらしい。青年は旅人らしく、全身を麻のマントで覆い、フードを頭まですっぽりと被っていた。とはいえこのあたりには、いわゆる訳ありの人物も多く訪れるため、そのような装いの人物は珍しくなかったのだが、それでもその青年の様子は何故か目を引いた。 「いったいなんだい?」  女将さんはうさんくさそうな視線を男に向けると、冷たい声で言い放つ。それは、感覚的に男が客ではないことに気がついている様な態度だった。
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