足音の無い男

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「てめえ、いつの間に」 「悪い、お前の体があまりにも臭くて、思わず避けてしまったよ」  青年はそう言いながら男の横をすりぬける。その様子に再び店内は爆笑の渦に巻き込まれた。しかし、青年はそんな事には構わず、再び女将に、何か知らないか? と聞き直していた。  大柄な男は羞恥からか、それとも怒りからか、禿げ上がった頭の先まで真っ赤にすると、 「てめえ、ふざけんなよ!」と、青年に向かって殴りかかった。大柄な男はこのあたりでは『岩砕きのベンスン』の異名を持ち、素手で岩を砕けるほどの剛力を自慢していた。そのため、店内にいる他の男達は青年のぺしゃんこになった姿を想像し、下劣な笑いを口元に浮かべる。
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