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マントの青年は店内を見渡すと、
「あんたらも、知らないか。右目と左目の色が違う男だ。右が青、左が赤い目をした」
しかし、誰もその問いに応えない。青年は仕方なさそうに肩をすくめると、邪魔したな、と言い残して店を出て行った。
「おい、あいつ、この床で足音も立てず行きやがったぜ」
店内で一番めざとい男がその事実に気がつき、驚きの声を挙げた。古くなり、いまにも腐りそうなその床は、いくらゆっくりと歩いたところで、ギシギシと大きな音を立てて鳴くと言うことで、赤ん坊よりもよく泣く床だと、いつも笑い話になっていたのだ。
その様な騒ぎを背景にして、青年の後を追うようにして薄茶色のマントを羽織った人物が店を飛び出す。しかし、店内の客達は泣かなかった床に関する発言に気を取られ、その事に気がついた者は一人も居なかった。
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