梅昆布茶と宝石泥棒

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 建物の一番奥の牢屋の入り口付近にある簡素な部屋で、新聞を広げている男がいる。 「まぁだ、見つかってないのか」  男は新聞の隅のほうに“華麗なる泥棒”と遠慮がちに書いてある項目を見つけ息を吐いた。つい数日前までこの事件は新聞の半面を陣どっていた。しかし殺人事件や増税の予兆などによって、日に日に隅のほうに追いやられてしまったのだ。  宝石泥棒の記事のページを開いたまま新聞を机に置き、喉が乾いたと言って立ち上がった。湯飲みに梅昆布茶の元を2・3枚入れ、古ぼけたポットからお湯を注ぐ。 「げ、冷めてる……」  湯気がたつ熱々の梅昆布茶を楽しみにしていた男は、顔をしかめると口の中に1枚、梅昆布茶の元を放り込んだ。唾液と混じってできた口内梅昆布茶をごくりと飲み、まだ口の中に残っている元をちゅうちゅうと吸う。んー旨い、ともの寂しい部屋に言い、冷めてあまり出汁が出ていない梅昆布茶を片手に新聞を覗きこんだ。 (早く見つからないかな、宝石泥棒……。まぁ、手掛かりなしじゃあ無理か)  男は記事を読み終わるともう諦めよう、とゆくっり新聞を閉じた。
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