何も変わらない日常

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 僕は刺される痛みに耐えるために、目を瞑った。 「ぐあ゙ぁ゙」  あぁ、これは僕の断末魔だろう。刺されると自分が何を言ったのかも、分からなくなるみたいだ。  痛みも僕の体には刺激的すぎて感じない。変わったのは僕がある男に刺されたという事実だけ。  周りから悲鳴があがる。誰かが物を落としたのだろう、ドサリと重い音がした。  そうだった、ここはショッピングモール。あの男のせいで忘れていたよ。  数々の悲鳴から君の声を探すが見つからない。衝撃的すぎて声がでないのかな?  最期に君の美しい声が聞きたいよ。愛しい君を拝んでから死のう。  僕は静かに目を開けた。  真っ赤に染まった愛しい君が僕の目に飛び込んでくる。周りから聞こえる悲鳴はBGM化して、僕の耳から耳へと抜けていく。  あぁ、そうか。君は僕を守ってくれたんだね。全身で震える君も可愛いね。  君は僕の視線に気づいたのか僕を見た。ゆらゆら揺れる瞳には僕は映っているのだろうか? 普段君が僕を見る目と違うからか、僕を見ていて見ていないようだよ。  僕は君の虚ろな瞳に耐えかね立ち上がった。君にその瞳は似合わない。大丈夫。僕がいつもの茶目っ気のある君に戻してあげる。  目の前に転がっている汚埃を避け、床に広がる汚ならしい液体で滑らないように歩く。  君だけが時が止まったようにぴくりとも動かない。  大丈夫。僕がすぐにほどいてあげる。恐怖という名の呪縛から。  僕が手を伸ばそうとしたその時、誰かが叫んだ。 「そこの君!! 早くそいつから離れなさい!!」  僕はきんきんと耳に突き刺さる棘に気にすること無く、背後から君を抱き締めた。
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